■ 輪(リング)(4)

 ―――――――全て。

 リュミエールが望むものは、全て与えていたつもりだった。

 ―――――――何も。

 あの人の、何も求めない優しさにかまけて。

 何も、何一つ、「リュミエール」に、あの人だけに、与えるべきものを、与えていなかったことを。

 今この時、初めて、自分の愚かさを嫌というほど思い知らされた。

 

 ―――――――――今までに戯れに抱いてきた女と、同じ事しかしていなかったじゃないか。

 ただ抱いて、愛していると、馬鹿みたいにそれだけで。

 約束も、それ以上のことも、何もなく。

 オスカーには、リュミエールが愛しているのが自分だけだと、自分だけに抱かれていると何の躊躇いもなく思えるけれど。

 リュミエールに同じ事を求めていた自分が―――――今までに星の数ほどの女たちのとの、戯れの恋愛を繰り返してきたオスカーを、ある日いきなり信じろと、無言のうちに強要してきた自分が―――――本当に馬鹿だと思った。

 

 真綿で首を絞められる想いだったのは、きっとリュミエールのほうだったはず―――――

 

 オスカーが横にいる今に、今を巡る時の輪に、縋るしかなかったリュミエールの痛さを思い知った気がした。

 

 

 店に入ってショーウィンドウケースの展示品を両方とも買いたいと申し出ると、どちらも一点ものでしかも非売品だと最初断られた。

 炎の守護聖の名と紋章を出した。店の従業員はオスカーが気抜けするほどにあっさり折れた。宇宙における自分の無比の権威をこういう事に使ったのは初めてだった。

 それでも、他のものでなく、どうしてもそれが欲しかった。

 自分が着ることになるほうはともかく、純白のあのドレスは、これしかないと、リュミエールのためだけに作られたものだと思ったから。

 

 その後、宝飾店に入って、気に入ったものを見繕って、シンプルなデザインの、2つのプラチナの輪を買った。

 裏には当然のように彫ってもらった言葉が入っていた。

(from Oscar to Lumiere)

(from Lumiere to Oscar)

 

 

 

【オリヴィエより通達】

(対象:炎の守護聖私邸の使用人)

 以下の徴候在りし折には連絡されたし。

 ………………………

 

【オリヴィエより通達】

(対象:全守護聖(除2名)及び女王、女王補佐官)

 至急礼服と心の準備されたし。

 

 

 

「オスカー」

 …………夜の聖地の私邸に帰ると、自分を待っていた暖かい笑顔に迎えられた。

 誰よりも、何よりも見たかった微笑。そして自分が、今まで、無意識のうちに蔑ろにしてきた微笑―――――。

「お帰りなさい。ご無事で何よりでした」

 ……なのに。

 なんてこの人の微笑は、自分を包み込んでしまうほどに暖かいのだろうか。

 

 自分に見せなかった、涙の理由が、血を滲ませた微笑の理由が、わかった。

 自分の前で微笑うために。

 オスカーには、オスカーにだけは、翳のない、暖かくて優しい、心からの微笑を見せるために。

 その代わりに。自分のいないところで、泣いて、血を滲ませていたのだと。

 

 

 壊れ物に触れるように、そっと手を伸ばして、頬に手を添えた。

 そのまま、絹糸のような髪を梳く。

 ゆっくりと、恐る恐る近づいて、包み込むように柔らかく腕の中に抱き込むと、指で、唇で、目元から頬へ、髪へ、何度も触れた。

 いつもオスカーが見せる激情とは違う、羽根のような愛撫に、リュミエールは少し驚きながら、やんわりとされるがままになっていた。

 

 

 愛しくて愛しくて、胸が痛みに壊れてしまいそうだ。

 この愛しさを、自分はどれだけ無為にしてきたことか。

 

 

「お前が欲しい」

 軽く抱き留めたまま、耳元で、柔らかく…………心を込めて囁いた。

 少し離れて視線を絡めると、深海色の瞳は大きく開いてオスカーを見詰めた。

 それからリュミエールは目元を朱に染めると、恥じながら俯いた。さらりと音を立てて流れ落ちた青銀の髪が頬に掛かる。

「お前の何もかもが……欲しい」

 少しだけ間を置いて、両腕に優しく抱き上げた。愛しい人はゆっくりと自分の首に腕を巻きつけて、首筋に顔を埋めた。吐息が首筋にかかる。

 寝室に入った。この間、ようやく愛する人を迎えることが出来た部屋。

 目覚めて無くなった気配に、地に落ちるほどの絶望を覚えた……ベッド。

 腕の中の人を、ゆっくりと、横たえた。

 ベッドの端に腰掛ける。いつもなら性急に覆い被さるところを。

 不思議そうな顔をして横たわる目の前の人の、細い顎に手をかけ、薄めの柔らかい唇を親指で辿る。

「もう、二度と離さない………」

 ゆっくりと躯を傾けて、目元に口付けた。

「もう、何処にも行かせない……………」

 それがこの間の、夜明け前に離れてしまった夜のことを指しているとわかったのか。

 リュミエールの目が、葛藤の表情に細められた。

 オスカーは少し身体を離した。視線を絡めるように。

「………リュミエール」

 目を覗き込むようにして、宣言するようにはっきり呼びかけてから、ゆっくり身体を傾け、白い首筋に唇を当てた。

「………オスカー?」

 明らかにいつもと違うオスカーに、熱くなった吐息を混じらせながら、困惑した声で呼びかけるリュミエール。

「……今を巡り続けるだけの、時の輪など、要らない」

 オスカーの言葉に、リュミエールの身体が一瞬で強張った。

「……だから、聞かせて」

 固まったままの肌の上に、唇を滑らせながら、オスカーは囁いた。

 

 

「………俺のことを愛している、と」

 

 腕の中の躯が、大きく跳ねた。

 

 

 しばらく、沈黙の時が流れた。

 やがて、緩やかな愛撫の衣擦れの音が再開される。

 片手で細い身体の、脇から腰へのラインをなぞりながら、唇を滑らせて、ゆっくりと白い胸元を開いた。

「俺は、お前に求めてばかりで……何もおまえにしてやれなかった」

 慈しむように、滑らかな肌に唇を滑らせる。

「…………んあっ……………」

 腕の中に囲った躯が一気に熱くなって、オスカーの褐色の身体の下で揺れた。

「お前が感じて当然の不安に、気づいてもやれなかった……………」

「………っ……………違っ……あ………」

 一つ一つ、水の守護聖の纏っている衣装を開いていく。

 少しずつ、心のベールを剥がすように。

「……俺に不安を見せまいとして、今を繰り返す時の輪に縋って…………俺を自分の涙で傷つけまいとして、俺の居ない所で泣いて………そうだろう?」

「やっ………違うっ……」

 愛撫を受けながら、顔を歪めて、泣きそうな顔でオスカーの言葉を否定するリュミエール。

 ―――――――まだ、本心を話してくれないのか?

 そこまで追いやったのは、他でもない自分で――――――――

「……本当に、すまなかった。悪かった。」

「違…………」

 オスカーはわずかに身体を浮かせた。オスカーに向けて見開かれた、深海色の目を見る。

 認めてくれないことが、辛い。

「…………許してくれないのか?………」

「違いますっ………!」

 激しくかぶりを振る。

 急激に、リュミエールの声のトーンが上がった。

 

 

「貴方のせいじゃない……………!」

 

 

「………………何故?」

 初めて、自分の前で感情を昂ぶらせたリュミエールの、話を促すように穏やかな、しかし熱情のこもった愛撫を加える。

「…………たは、…貴方は、こんなに私を愛してくれているのに………それを信じようとしない私が嫌い………」

「…………………………」

「私を愛していると告げてくれる、……っ……貴方に素直に返事できない私が嫌い…………」

「………………リュミエール」

「変わらず愛情を注いでくれる、貴方を………失ったときに………傷つかないよう、心の準備をしている私が大嫌い………!」

「リュミエール」

「貴方との未来を信じられずに、時の輪に縋る私自身が大嫌い………!」

 大きく頭が揺り振られて、青銀の髪がシーツの上で乱れ、白い頬から涙が散った。

 

「こんな私が、貴方の傍にいて良いわけがない! 私なんて大嫌い!」

 

 吐き出すような叫び声だった。

 初めて、涙を隠しもせずに、自分の腕の中で本心を見せて泣き叫ぶリュミエールがそこにいた。

 

 

 初めて知った。本心を曝け出した涙が、こんなにも胸を熱くさせる、愛おしいものだと。

 

 

 口付けた。ゆっくりと、どこまでも深く。

 ようやく本心を発露したリュミエールは、泣き叫んで上がった息を口付けの合間につきながら、涙に濡れた目を閉じ、断罪を待つような諦めの表情でなすがままにされている。

「………………それでも、構わない」

 オスカーの言葉に、リュミエールが弾かれたように目を見開く。

「お前が、お前自身を愛せなくても構わない」

 リュミエールと視線を合わせるオスカーから、自然に笑みが零れた。

 この自分に、炎の守護聖に、ただひとり、心底から惚れられてしまった半身の運命だ。

 諦めて、甘受してもらわねば。

 

 

「お前の分も、俺がお前を愛してやるよ」

 

 

 リュミエールの深海色の瞳が、これ以上はないくらいに大きく見開かれた。

 

 

「…………もう二度と、離さない。絶対に」

 愛撫を再開した。自然と熱がこもる。

「もう、お前しか要らない。他の女など愛せない」

「………オスカ………あ……………」

「信じられなくても構わない。絶対に離さないから」

「………あ、………んあっ……………」

「お前はただ、俺の傍で、俺を愛してくれればいいから」

「………オスカー…………あ、だ………」

「だから、聞かせて」

「オスカー…………………」

 

 愛撫が急に苛烈さを増した。

 

「オスカッ、や、あ、やっ…………!」

「愛してる…………」

「……あ、……んぁ………っ………!」

「言ってくれ」

「……スカッ…………」

「愛しているリュミエール。…………聞かせて」

「……………オスカー………ぁ………」

 

 観念したように、震える白い手がオスカーの紅い髪を掴んだ。

 

「……なたが、……です、オスカー…………」

「…………もっと」

「貴方が、好き……です、オスカー……………」

「もっと」

「貴方が、好きです………大好き……………」

「もっと、聞かせて」

「好きですオスカー…………好き………愛してる……………」

「もっと」

「愛してる………愛してるオスカー…………何処にも行かないで…………!」

「もっと。もっと俺を求めろ」

「愛してるっ……ん…っ、あい、し、てる…っ、離れ、ないで……!」

「もっとだ。もっと俺に堕ちてこい」

「や……も、何処、にも、行かないで、……私、を、私だけを、抱いて……愛して………愛してる……愛してるオスカー……!」

 

 叫ぶリュミエールの声は、涙声になっていた。

 

「…………何もかも、全部、お前にやる」

「…………カー………んぁっ………」

「お前の望むものは、全部、俺が満たしてやる」

「………オスカー………ぁ……」

「………お前だけを、永遠に、愛している………リュミエール」

「…………っ、や、あ、」

 細い指が、痛みを覚えるほどにオスカーの髪を握り締めた。

「……いしてるっ、オスカー………!」

 語尾は、遥かに深い高みに上り詰めた嬌声に変わった。

 

 

 

 

 

 涙に濡れながらぐったりと意識を手放したままのリュミエールを、オスカーは心地よい気だるさの余韻が残る自分の腕に抱き上げ、たっぷりと湯の張られた浴槽に連れて入った。

 腕の中に抱えたまま、乱れた躯を綺麗にしていく。リュミエールは何度か、ほんの微かに意識を浮かび上がらせていたが、そのたびにオスカーが優しく微笑みかけると、安心したように再び引き摺られるような眠りについていた。

 リュミエールと自分の体を一通り洗い終えると、浴槽から出て、リュミエールの身体をソファに横たえ、丁寧に拭いていった。

 それから、今日主星で手に入れた純白のドレスを、ゆっくりと身につけさせていった。

 思った通り、誂えたように、ぴったりだった。

 自分も、同時に購入した紫の礼服に着替えた。

 

 全ての用意が終わると、ビロードの小箱から、2つの輪を取り出して――――――――― 一度、強く握り締めて――――――――それから胸ポケットに納め、眠ったままの純白のリュミエールを両腕に抱え上げて、部屋を出て行った。

 

 

 

【オリヴィエより通達】

(対象:全守護聖(除2名)及び女王、女王補佐官)

 時、来たれり。集合☆

 

 

 

 ――――――――――少し、眠っていたらしい。

 そう気がついて目を覚ましたのは、腕の中に納めたままだった愛しい人の、身じろぎする気配が身体に伝わってきたからだった。

 いつもは強い太陽の光が差し込む天窓の下、白い翼の持ち主を強く照らし出す、この数段高くなった場所で、今は自分と――――――――真円の月の青い淡光のもと、純白のドレスを纏って、浮かび上がるように光るリュミエールの姿が照らし出されていた。

 そのリュミエールの、瞼がゆっくりと上がり、そのままオスカーと視線が合う。

「………………オスカー?…………」

 ぼんやりとした顔が、ゆっくりと巡らされて、辺りを見回した。

 目に映ったのは、行事ごとに訪れる、ある意味、見慣れたこの場所と。

 

 ―――なぜか、私の腕が、足元が、とても白くて――――

 ―――その白が、遠くへ、扉の方へ滑らかに伸びていて――――

 

「………え…………」

 リュミエールの意識に、ゆっくりと、浮上してきたそれは。

 

 床に座るオスカーの両腕に、抱えられたまま。この、謁見の間で。

 ―――ウェディングドレスを、身に纏った自分―――――

 

「………………リュミエール」

 認識した状況を理解するより先に、オスカーの手によって、何かがリュミエールの手の中に握らされた。

 先に握り締められていたオスカーの片手が開いて、一瞬、月光を弾いたのは、銀より白く光る細い輪で。

 …………自らの手を開こうとする、リュミエールの白い指先が震えた。

 

 …………その中に在ったのは、オスカーの手の中のものより、一回り大きい、揃いの輪。

 同じように月光に照らされて、縁が光った。

 

「リュミエール」

 再び合わされた視線の、オスカーの表情は、とても穏やかで――――――――

 次に来る言葉に、リュミエールの唇が、心が、震えた。

 

 

「結婚しよう。リュミエール」

 

 

 リュミエールの意識の中で、長い間、見えない縛めになっていた時の輪が、水の中で水飛沫を上げて砕け散った。

 

「………ッスカー……………」

 堤防が決壊したように、リュミエールの両目から溢れ出す大粒の涙。

 あの日と同じように、月光を吸って青く光り、白い頬を転がり落ちるのに――――――――――

 

 

 愛しい人の、歓びに流す涙が、どれほどに優しい微笑を誘う、心温まるものであるか。

 オスカーは、この日に初めて知ったのだった。

 

 

 オスカーの胸に顔を埋めて、リュミエールが本格的に泣き出してしまった。

「受けてくれるか?」

 オスカーの問いに、リュミエールは声を出すこともできず、ただ何度も頷いた。

 背中に回されたリュミエールの片手が、ぎゅっと、強くオスカーの服を掴む。

「愛して、います、オスカー……………永遠に、貴方だけを、………」

 涙混じりの声で、切れ切れに、辛うじてそれだけを告げた。

「誓いの言葉はまだ早いぜ。それは俺から先に言う言葉だ」

 オスカーの優しい笑いを含んだ声に、リュミエールが涙の乾かない瞳で、微笑った。

 

 

 バタン、と唐突に乱雑な扉の開く音。

「はァ〜い見届け人も準備せずに式挙げるつもり? ホンット〜に甲斐性のない男ね〜アンタって!」

 開かれた両開きの扉から覗いたのは、派手な礼服に身を包んだ派手な髪色の持ち主だった。

「オリヴィエ!?」

 驚いたオスカーとリュミエールの言葉が綺麗に重なる。

「も・ち・ろ・ん、アタシだけじゃないわよ☆」

 …………2人は、本当に呆然とした。

 オリヴィエの後ろには、彼らに笑顔で笑いかけながら、揃って礼服に身を包んだ守護聖全員の姿が、それどころか金の髪の女王と紫の瞳の女王補佐官の姿までがあったのだ。

 慌てて共に立ち上がったものの、驚いて声も出せず動けもせずにいる2人の方へ、オリヴィエがゆっくりと歩み寄ってきた。

「………………ああ……………」

 そして2人から少し離れた所で、立ち止まって、数段高い位置に立つ、天窓からの月光に照らされたリュミエールを眩しそうに見上げる。

「やっぱり、よく似合ってる…………………すっごく綺麗よ、リュミちゃん」

 そう言って、足元に靡いていたウェディングドレスの裾を綺麗に広げると、きざはしを上り、2人のすぐ傍まで歩いてきた。

「――――――――――これ、アタシがリュミちゃんのために作ったのよ」

「―――――――は?」

 思わずオスカーが声を上げる。

「あの日さ――――――リュミちゃんが、オスカーを愛してるって言ってくれたらあげるつもりだったのよ、コレ。でもリュミちゃんたら強情なんだもの」

 あの日、オリヴィエが持っていた大きな荷物。

「そのままどこかに押し込むのもあんまりに口惜しかったから、主星の行きつけの店に展示だけしてくれるように頼んでおいたんだけど」

 炎の守護聖が買っていったって聞いた時は驚いたわぁ、とオリヴィエは言葉を続けた。

 ――――――――道理で、店の店員があっさり引いたわけだ、とオスカーは思った。

「オリヴィエ…………………」

 呼びかけるリュミエールの声が、震えていた。

「リュミちゃん、ちゃんと自分で幸せになれたのね……………よかったわ」

 手を伸ばして、ゆっくりとリュミエールの髪を梳くオリヴィエの言葉に、再びリュミエールの涙が溢れる。

「いいえ…………いいえ」

 青銀の艶やかな髪が揺れた。

「私の力ではありません…………オスカーの、おかげです………オスカーが、私の傍にいてくれたから…………」

 その言葉に、オリヴィエが柔らかく微笑んだ。

「―――――さ、ノロケはそのくらいにして、結婚式、やるわよ☆」

 へ〜いか〜〜、とオリヴィエが扉のほうを振り返って手招きする。綿菓子のような金の髪を持つ女王は、小走りにてとてとと走り寄ってきた。

 そのままぐるっと回り込んで、本来の結婚式で神父が立つべき位置、オスカーとリュミエールのすぐ脇まで来て歩みを止めると、2人に向かって、にこっ、と、陽光のような明るさで微笑みかけた。

 オリヴィエがゆっくりと下がり、他の守護聖たちが壇上を取り囲んでいる、その中に混じる。

「女王、および全ての守護聖の名の下に於いて、これより、オスカー、リュミエール、双方の結婚式を執り行います」

 脇に立つ、紫の瞳の女王補佐官の凛とした声が謁見の間を渡った。

「ではオスカー、誓いの言葉を」

 女王に笑顔で呼びかけられたオスカーは、ゆっくりとリュミエールのほうへ向き直り、アイスブルーの瞳に真摯な色を浮かべて、リュミエールと視線を合わせた。

 まだ涙の露のついたままの、水色の睫へ、右手を伸ばし、そっと拭う。

「リュミエール…………誓う。俺は、お前だけを、永遠に愛する」

 そのまま、今までで一番綺麗な表情を見せる、リュミエールの顔に手を添えた。

「ではリュミエール、誓いの言葉を」

 リュミエールはわずかに顔を傾けて、この場を見守る女王に微笑みかけた。それから再び視線を戻し、まっすぐにオスカーを見つめる。

「貴方を、貴方だけを、永遠に愛することを誓います、オスカー………」

 震える手を持ち上げて、頬に添えられた暖かい手に重ねた。

「では、指輪の交換を」

 頬に触れていたオスカーの右手が動いて、きゅ、と重なっていたリュミエールの左手を握った。

 ゆっくりと、オスカーの前に導かれていく。輪をその中に抱いて、ずっと握り締められたままだったオスカーの左手が、動いた。

 その中に光るのは、紛れもない、澄んだ光を弾く輪で。

 リュミエールの、震えの止まらないまま開かれた手の薬指へ、リングが触れ、差し込まれた。

 ずっとオスカーの手の中にあった細い輪は、オスカーの熱をその中に孕んで、熱かった。

 ………リュミエールは、無意識のうちに握り締めていた自分の右手を、確かめるようにゆっくり開いた。

 自分の掌の上で輝く、輪。

 リングを嵌められたばかりの、震える左手で持った。

 差し出されたオスカーの左手の、薬指に、ゆっくり、ゆっくり、嵌めてゆく。

 最後まで差し込んだところで、重なる手が強く握り締められた。顔を上げる。

 視線を絡めたオスカーへ、少しずつ、自然に、顔が寄せられていった。

 目を、閉じた。目尻から涙が溢れた。

 

 ――――――唇に触れる唇の感触と、耳に入る、同僚たちの祝福の歓声。

 閉じたままの視界が、真っ白な光に包まれるように、何も、何も見えなくなって。

 

 

私を縛っていた、今を永遠に巡る時の輪は。

貴方のくれた輪が―――跡形もなく、消し去ってくれて――――――

 

 

 遥かに続く新しい未来が、足を踏み出したリュミエールとオスカーを暖かく包んだ。

 

 

The End